ジョブ型の評価制度は過去の成果主義とは異なるものと考えるべき!


在宅勤務やテレワークの増加によって、昨今よく言われるジョブ型マネジメント。
日本がメンバーシップ型管理と言われるのに対して、欧米ではジョブ型管理と世間では言われています。

ジョブ型の特長は主に以下の通りと定義されているようです。
・職務が限定される。
・職務に対して報酬額を決める。
・定期昇給はない。
・担当職務がなくなったり能力不足であれば雇用契約を終了する。

しかしこれらを額面通りに受け取ると、1990年代に富士通をはじめ大手企業が次々と取り入れた欧米型成果主義による人事評価制度とあまり変わりがありません。
これらの評価制度は目標設定の不公平感や自分さえよければという個人主義を煽ることでことごとく失敗し、2000年代初頭にいずれも大幅な軌道修正や廃止に追いやられました。

一方で1980年前後には、既に欧米諸国(特に米国)が日本企業の隆盛に脅威を抱き、日本型のマネジメントの利点を徹底的に研究していたこともあり、1990年代にバブル崩壊で日本が欧米型の過去の成果主義をこぞって取り入れた時には、海外の学者たちから嘲笑されることにもなりました。

その時米国の研究者によって解明されたのは、結果のみで報酬を測る成果主義では従業員は自分の利益だけを追求する個人主義となり、同規模の企業において人間関係の構築による強固なチームワーク(組織力)を持っている企業のほうが高い成果を産むということが明らかにされ、米国の主要企業ではその後のマネジメントにチームワークを高める取り組みが積極的に取り入れられることになりました。

つまり昨今流行っている「ジョブ型マネジメント=成果主義」という言葉は、へたをすると30年前の日本企業の過ちに戻ってしまう危険性をはらんでおり、非常に短絡的に捉えられやすい言葉になっていると考えています。

ではこれからの人事制度はどのようにすべきでしょうか?

労働生産性を上げることや労働環境を良くすることに否定的意見は無いと思われ、そこから在宅勤務やテレワークの拡大は今後の必然としたときに、人事制度はどのようにあるべきでしょうか?

実はここには大変難しい課題がいくつか潜んでいることを認識しなければなりません。

まずひとつはジョブ型の「職務限定と目標設定」です。
いわゆる現場労働者であれば、「1週間で千件処理したらいくらの報酬」といった取り決めもできるでしょう。
しかしながら、そういった対象者は、工場の製造スタッフや単一労働でのテレワークスタッフなどに限られており、通常の一般従業員であれば、複数以上の業務を抱えてフレキシブルに職務を切り替えて業務に取り組んでいるのではないでしょうか?

特に中小企業においては、一人の人間が多様な業務を担っており、職務を限定することはかなり困難なことと思われます。
正に企業の強みを支えるのがチームワークなのですが、「私はこの職務は与えられたミッションではないから手伝わない!」という捉え方になってしまえば様々な問題が生じることは疑いの余地がありません。

つぎに「職務に応じた報酬を決める」という点ですが、これは評価制度を導入している企業では永遠の課題として取り組み続けていることだと思いますが「公平性」という問題です。

同じ職務であっても難度が異なるとか、チーム力の差が個人の結果に影響するとか、処理した量だけでその貢献度を測れないことは多いと思います。
結果不公平感を招いて、社員の退社や社員間の溝を深めることにもなります。
しかも中小企業では人的資源が限られるため、生産性の大小にかかわらず本人が望んでいない職務に就いてもらうことも多く、更に不公平感を高めることとなります。

昨今マネジメントはメンバーシップ型からジョブ型にしなければ、といった話が経営者間でもよく聞かれますが、私はジョブ型の良い点と悪い点を踏まえた上で、メンバーシップ型の良い点も取り入れてその企業に合った制度にする必要があると考えています。

そもそも日本のメンバーシップ型という概念が、従業員間の連帯(逆に甘え)、年功序列、終身雇用と退職金制度、学歴主義、などといったことばかりがマスコミなどでも列挙されており、メンバーシップ型の良いところが何なのかについてあまり議論されていないのではないかと捉えています。

しかしながら、それらは前述したとおり過去の欧米による日本企業の徹底的な研究において既にある程度明らかにされており、その導入手法についても研究は進んでいます。
ちなみに私が学んでいる行動分析学もそのひとつなのですが、どうして我が国では「ジョブ型」「メンバーシップ型」などという曖昧な表現でひとくくりにするのが好きなのだろうか?と思ってしまいます。

また、今様々な人事管理のアプリも出回っていますが、最新のアプリを導入することで良い人事制度が構築できる訳ではありません。ワークエンゲージメントアプリを入れても退職者が減らないといったケースも聞きますが、人事を他力(システム)に任せることだけでは解決できない問題が多々あるのです。

過去日本企業においては、社員が大切と言いながらも人事制度は総務任せで採用活動や給与計算、勤怠管理、などに限定されていた企業が多かったようですが、今後の企業の成長や生き残りは人事の有り方が最も問われることとなってきています。

今まさに在宅勤務やテレワークを進める一方で、人事制度については、各企業に合った制度について真剣に検証をし、注力して取り組まなければならないタイミングとなっています。