中小企業の「人的資本経営」について
昨今健康経営の進化型として「人的資本経営」という言葉がよく聞かれるようになりました。
経済産業省の定義では、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と記載されています。
ただ現在多くの講演などで紹介されている内容は、主に大手企業の事例であり、「人的資本を高める取り組みなどを、投資家との対話や株主向け報告書にてステークホルダーに認知してもらい、企業価値を高める。」といったものが多いように感じます。
またそれに加えて、人材活用アプリの提供企業などが、自社システムの紹介を絡めたセミナーも多く見られるようになっています。
そのため、この「人的資本経営」というワードが、「健康投資管理会計」とも関連して、中小企業にはまだ先の話と捉えられかねず、本来は中小企業のほうがもっと必要とされるはずの「人的資本経営」の考え方自体が、むしろ縁遠く感じられるようになっているのではないかと個人的には感じています。
そこで、「人的資本経営」の考え方をもっとシンプルな形でお伝えしたいと思います。
古くから経営資源の三要素として「ヒト・モノ・カネ」という言葉があり、この3要素は常に並列で語られてきました。
ただ「モノ」や「カネ」はそれ自体が勝手に成長することはありませんが、「ヒト」は常に変化するものですので、そこに成長していく環境をつくってあげれば、自然に何倍もの人的価値を持った人財になり得るということになります。(こう考えますと私的には『資本』という言葉もあまり適切ではないような気もするのですが)
つまり「モノ」と「カネ」は『資源』だけれども「ヒト」は資源ではなくて、それ自体が変化し形を変えていく『資本』ということが言われている訳です。
そこで「そのようなことは昔から分かっていること」と思われるかもしれませんが、実のところは、一部の企業を除いて、特に日本企業においてはあまり意識されてこなかったことでもあるのです。
その証拠に、2000年以前の時代には、企業の総務人事部門は、営業部門や経理部門に比べてもあまり注目されない部署でありました。とにかく社会保険や給与制度の間違いのない運用と採用活動ができればそれで良いといった考え方であった訳です。
ただそれが現在においては、人事部門は企業成長に最も重要な役割を担う部署として、社員のポテンシャルを最大限発揮させるための価値創造部門でなければならないと、大きく見方が変わっているのです。
そして、そこに気づいてきた結果として、今様々な企業がヒューマンリソースの価値を高めるための多様な取り組みに注力しています。
つまり「人的資本経営」を、「社員の皆さんのポテンシャルを最大限引き出す経営」と言い換えれば分かりやすく、中小企業にとっても非常に切実なテーマであるとご理解はいただけるものと思います。
したがいまして、様々な大手の企業事例を聞いていただいても、中小企業にとって必要なことは、ステークホルダーへのアピール方法ではなく、具体的な組織活性化や社員育成手法に注目すれば良いということになります。
例えば、ワークエンゲージメントや心理的安全性などの様々な取り組みがありますが、これらはすべて「人的資本経営」を達成するための手法です。
大手企業の「イノベーションを起こすための人材戦略をアピールして、ステークホルダーにおける企業価値を最大化しよう。」とか言われても何かピンときませんが、社員を成長させるための個々の具体的事例には学ぶべきものが沢山ありますので、そういった視点で「人的資本経営」を捉えて、多くの情報をインプットしていただければ良いのではないかと思います。